年間聴講100件超! 講演会マニアが経済の明日を占うブログ

1年間に100件超もの経済に関する講演を聴講している講演会マニアが、見聞きした講師の話を通じて日本経済の展望を語るブログです。

1983年の名著『構造と力』によって難解な現代西洋哲学をあっさりとチャート化し、「スキゾ」や「パラノ」といった流行語を生み出すなど、かつて“ニューアカブーム”の旗手と評された浅田彰氏。
京都大学経済学部で教鞭を取りながら、音楽や文学、映画、絵画、舞踊、建築といったありとあらゆる芸術を横断し、行く先々で各分野の専門家顔負けの鮮やかな批評を展開されてこられた姿はまさに天才そのもの。現在は京都造形芸術大学に籍を移し、その活躍の場を広げられています。

その浅田彰氏が、媒体を変えながらも長らく続けておられるのが田中康夫氏との雑誌対談『憂国呆談』です。今も「ソトコト」誌上で、毎月、政治経済・社会・芸術文化など様々な時事問題について縦横無尽にお二人で語られていて、とても楽しみにしています。
最新号ではシャルリー・エブド襲撃事件から、イスラム国の問題、そして話題のピケティ『21世紀の資本』について触れられていて興味深いので、ご紹介させていただきますね。
憂国呆談

対談ではまず、フランスについて浅田彰氏が「『他者に開かれた多文化社会』を目指しつつ、実際は移民を嫌な仕事のための安い労働力として使い、ゲットー的な地区に隔離してきたんで、テロの背景にもその矛盾があるし、国民戦線もそういう多文化主義の偽善を批判して大衆の支持をあつめている」と指摘。
それを受けて田中康夫氏は、「話しても完璧には分かり合えない存在だからこそ会話する価値が、恋愛でも家族でも職場でも生まれるように、それこそが政治や外交の折衝。なのに、最近では洋の東西を問わず、問答無用の思考停止状態な指導者が持てはやされる。それと同じ単純思考のベクトル上に、移民排斥運動が増えてきている」との見解を述べられています。

続いて、日本の移民政策についても、年間20万人ずつ移民を受けれることで50年後にも1億人程度の安定的な人口構造を保持できるとする政府見解に対し、田中康夫氏は「移民に賛成反対の二元論ではなく、1億人でいくのか6000万人程度の日本でいくのか、その選択肢も、さらには、超少子・超高齢の日本において働き手をどうするのかも国民に示さずに、大本営発表が既成事実化していく」と警鐘を鳴らし、浅田彰氏も「移民を受け入れざるをえない局面はあるし、移民を排除することはないけれど、そもそも1億人を保持するって目標が間違ってる」と応えていました。

そして、ピケティの『21世紀の資本』に対するお二人の見解が述べられるのですが、以下に引用させていただきます。


浅田 イスラムをめぐる宗教戦争も実際はグローバル資本主義とそれに乗り遅れた人々の闘争なんで、政治経済学的な分析が不可欠。フランスのトマ・ピケティの『21世紀の資本(論)』が世界的なベストセラーになったのも不思議じゃない。ただ、原書が出たとき読んで、このタイトルはまったくの誇大広告だとわかった。マルクスが『資本(論)』で資本主義のメカニズムを原理論的に解き明かし、資本主義を乗り越える方向を示したのに対し、ピケティの『21世紀の資本(論)』は、資本主義下で(戦争の時期を除き)格差が拡大する傾向にあることを統計から現象論的に実証し、税制によるその是正を提案するだけ。その程度の本を『資本(論)』と題してベストセラーにするなんて、ウエルベック(*)なみのあざといメディア戦略だよ(苦笑)。
*:くしくもシャルリー・エブド襲撃事件の日に、政治家の実名を散りばめながら、フランスにイスラム系の大統領が誕生するという筋立ての近未来小説『服従』を発表した人気作家

田中 「貧富の統計」をああいうかたちで可視化した経済学者がいなかっただけで、新しい何かを見出したわけではないからね。レジオドール勲章を辞退したのもスゴイと話題になっているけど、愉快犯みたいなもの。自分はオランドを支持していたけど、今は違うので彼から受け取りたくないってだけだ。オバマを支持していたハリウッド俳優が最近の彼はダメだと怒っているのと同じような類い。

浅田
 日本でも遅まきながら邦訳が出て、ピケティが宣伝のため2月に来日するらしい。対談しないかって言われたけど、とくに興味ないな。 

田中 監訳が山形浩生(*)ですから。
*:誤った認識のもとに誰かの言説を批判しては事後に誤りを認めざるをえなくなり、謝罪することの多い人で、浅田彰氏にも絡んだことがありました・・・


浅田氏といえば、京都大学大学院在学中に書かれた『構造と力』の前文で、マルクスの資本論なんて「どう見ても寝転がって読むようにできている と涼やかに言ってのけた御方。
ただ、裏を返せばそれくらい、マルクスの『資本論』は重要な書物ということ。

浅田氏はピケティと同じフランス人の中でも、特にミシェル・フーコーやロラン・バルト、ジル・ドゥルーズやジャック・デリダといった名だたる知の巨人たちの思想に触れてこられた方なので、『21世紀の資本』には、資本主義の限界を乗り越える方向性が何ら示されていないことに物足りなさを感じておられるようです。
氏や氏のように、そうしたピケティの姿勢をある種の「謙虚さ」として受け止めることはできるかもしれませんが、格差拡大に対する処方が累進性の資産課税の世界的導入という提言に終わってしまうところはやはり、ピケティの限界と言えるのではないでしょうか。

このように、浅田彰氏は様々なトークイベントで刺激的な発言をされておられます。
田中康夫氏も講演依頼サイトに登録をされているようなので、ぜひ聞いてみたいと思っているのですが、なかなか機会がありません(´・ω・`)

田中氏はかねてより、「日本の株式会社の7割、連結決算を導入する大企業の66%が国税の法人税と地方税の法人事業税を1円も納付していない」という税制の現状を批判されていますので、また次回にご紹介させていただきますね


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ピケティ『21世紀の資本』については、講演会でもおなじみの様々な評論家・アナリストの方々が発言されておられるようですね。
これまで紹介して来た「週刊ダイヤモンド」のピケティ特集の中でも、
作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏が鋭い分析をされていました。

佐藤氏はピケティついて、「自由だ平等だといわれながら、実は一定の大金持ち、投資銀行のディーラーなんかがもうけている構造を解明したいという正義感があったのだと思います」としながら、以下のように述べています。

この著者への私の支持率は90%。過度な数学を使って読者の目をくらます現在主流の経済学を用いず、読者の検証可能なデータを使って論じた点は、知識人として誠実です。論理の飛躍や幻惑もありません。
ではなぜ100%ではないのか。それは、国家に対する認識が甘すぎるから。国家が個人の資産に手を付けるようになれば、必ず暴走すると思います。国家による経済統制は、国家資本主義や国家社会主義に近い。非常に窮屈な世の中になりますよ。
それに資産課税を強化すれば、本当の超富裕層は、あらゆる手段を使って資産を隠したり、キャプタルフライトしたりする。
そもそも、ものすごい金持ちというのは、国家と仲がいいんです。ロックフェラー3世の本に、富を維持するためには、大衆にねたまれないように寄付をしろ、国家にできない外交をしろと書いてある。
つまり、国家と超富裕層は持ちつ持たれつの関係です。政府もここには手を突っ込めない。ピケティのような議論がいずれ出てくることを想定して、富裕層はすでに手を打っているわけです

情報の裏を読むプロ中のプロならではの分析ですね
前にご本人がどこかで語ってらしたのですが、何でも佐藤優氏は原則として講演は無償で行っていらっしゃるのだとか。
作家はあくまで書くことが生業であって、講演会で講師として多額の謝金を受け取っていくあまり書くことがおろそかになってしまった作家を沢山知っているからだそうです。
新党大地の勉強会(?)でお話になっているのを聞いたことが有りますが、講演会では時事問題(スノーデン事件の頃でした・・・)について、その背景から問題の本質、今後の展望まで非常に分かりやすく解説していただけます。
数多くの雑誌連載を持ち、執筆を重ね、圧倒的な読書量を保ちつつ、新聞を初めとする情報収集にも余念ない佐藤優氏の恐るべき仕事術は、「東洋経済」誌上で紹介されています

( ↓ 佐藤優著 『いま生きる「資本論」』)

佐藤優

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前回もご紹介した「週刊ダイヤモンド」のピケティ特集で、池上彰氏がインタビューを行っています。
池上氏はそのインタビューの成果として「若い人と民主主義のために書かれた本だと確認できた、これが最大の収穫です」と述べられています。

気になるアベノミクスの政策については以下のようなやり取りがありました。

池上:アベノミクスでは金融緩和によって実質金利をさらに引き下げることで何とか経済を良くしようとしていますが、これをどう評価しますか?

ピケティ:もしお札を刷ってさらにマネーの供給を増やすと、資産価値のバブルを引き起こしやすくなる。株価を押し上げることにはなりますが、格差が広がる恐れがある。はっきりと有効かどうかを答える自信は有りませんが、いずれにしても税制を変えるより手軽という意味で短絡的な手法だと感じています。

ピケティは富の最分配を促すべく資産に応じた累進課税の重要性を説いており、消費税については「あまり当てにすべきではない。消費税は累進性がなく、低所得層にしわ寄せがいきます。もともと貯蓄の少ない層に税をかけることで消費を抑えかねません。あまり、良い税ではないですね」とも断じています。

そしてこのインタビューは以下のように結ばれています。

池上:これまでお話を伺ってきましたが、本当に若い人たちのことを考えているのですね。

ピケティ:日本でも欧州でも、理由は違いますが、若い人の方が親の世代に比べて生きるのが難しくなっています。欧州では若い人だちの失業率が高く、これが社会に緊張感をもたらしています。日本は労働市場の仕組みが若い人に厳しい。パートや非正規の人が増えており、待遇も良くない。日本でも欧州でも、若い人たちに希望を与える政策を取ることが重要です。

池上:まさにこの本が民主主義の本であることを確認できました。今日はこれが収穫です。ありがとうございました。

全てを踏まえ、池上氏によるピケティ『21世紀の資本』の支持率は80%とのこと。

一方で、『構造と力』の浅田彰氏が指摘するように、「マルクスが『資本(論)』で資本主義のメカニズムを原理論的に説き明かし、資本主義を乗り越える方向を示したのに対し、ピケティの『21世紀の資本(論)』は、資本主義下で(戦争の時期を除き)格差が拡大する傾向にあることを統計から現象論的に実証し、税制によるその是正を提案するだけ」(憂国呆談という部分は否めません。
ピケティを英雄のようにもてはやす必要はなく、彼が警鐘を鳴らす格差拡大の課題に対し、それを解消する具体的な政策こそが求められているのだと思います

池上彰 ピケティインタビュー

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