前々回前回に引き続き、今回もエコノミスト・水野和夫氏の名著『資本主義の終焉と歴史の危機』の要約をお伝えいたします。
水野和夫 講演

これまでを振り返ると、水野氏は「利子率」の異様な動きに着目し、利子率=利潤率が2%を下回る今日の事態に、取り込むべきフロンティアが消失し、もはや投資をしても利益を回収できない資本主義の終焉を看取していました。
そして、富が一部の富裕層に集中し、中間層が没落する形で民主主義が破壊されつつある現状に警鐘を鳴らしています。

「資本主義と一口に言っても、その時代時代に応じて、中身は異なります。資本主義が勃興する時代には重商主義でしたが、自国の工業力が他国を圧倒するようになると、自由貿易を主張し、他国が経済的に追随して自国を脅かすようになると、植民地主義に変わり、IT技術と金融自由化が行き渡るとグローバリゼーションを推進したのです。
 しかし、国民国家システムでは権力の源泉が民主主義にあり、帝国システムでは軍事力を一手に独占する皇帝にあるという違いはありますが、『中心/周辺』もしくは『中心/地方』という分割のもとで、富を中央に集中させる『蒐集』のシステムである点では共通しています。
 そして、この『蒐集』のシステムから卒業しない限り、金融危機や原発事故のような形で、巨大な危機が再び訪れることになるでしょう」

資本主義とは決して世界のすべての人々を豊かにできるシステムではなく、上位15%の人々が、残る85%の人々から富を蒐集して、その利益を享受する仕組みに他なりません。
確かにグローバリゼーションは先進国と新興国との所得格差縮小に寄与していますが、グローバル資本主義とは「国家の内側にある社会の均質性を消滅させ、国家の内側に『中心/周辺』を生み出していくシステム」です。
現代の先進国にはもはや海外に「周辺」はないため、国内に無理やり「周辺」を作りだし、利潤を確保しようとしています。
その典型が、国内の低所得者に住宅ローンを貸し付け証券化することでウォール街という中央が潤うアメリカのサブプライム・ローンであり、非正規雇用者を増やすことで社会保険や福利厚生のコストを利益に変える日本の労働規制緩和だと水野氏は指摘します。
そして、その余地が無いにもかかわらず無理に拡大・成長を追及すれば、同時代のみならず未来世代からも収奪せざるを得なくなるのです。

「九・一五のリーマン・ショックは、金融工学によってまやかしの『周辺』をつくり出し、信用力の低い人々の未来を奪いました。リスクの高い新技術によって低価格の資源を生み出そうとした原子力発電も、三・一一で、福島の人々の未来を奪っただけでなく、数万年後の未来にまで放射能という災厄を残してしまいました。
 資本主義は、未来世代が受け取るべき利益もエネルギーもことごとく食いつぶし、巨大な債務とともに、エネルギー危機や環境危機という人類の存続を脅かす負債も残そうとしているのです

そこで、水野氏は我々が取り組むべき最大の問題として、資本主義をどのようにして終わらせるかに焦点を合わせます。
現状のように、むきだしの資本主義を放置すれば、リーマンショックを凌駕する巨大なバブルの生成と崩壊が生じます(生産過剰に陥っている中国バブルの崩壊⇒アメリカ国債売却によるドルの終焉と、設備過剰な新興国のデフレ化など)。
そこで、いまだ資本主義の次なるシステムが見えていない以上、資本の暴走を食い止めながら、そのソフト・ランディングを模索することが最優先されなければなりません。
グローバル資本主義の暴走にブレーキをかけるとすれば、現在の国民国家はおろかEU規模でも力が及ばないため、少なくともG20が連帯して巨大企業に対抗する必要があります。

「具体的には法人税の引き下げ競争に歯止めをかけたり、国際的な金融取引に課税するドービン税のような仕組みを導入したりする。そこで徴収した税金は、食糧危機や環境危機が起きている地域に還元することで、国境を越えた分配機能をもたせるようにするのがよいと思います」

このように、まずは資本主義にできるかぎりブレーキをかけて延命をさせながら、ポスト近代に備える準備を整える時間を確保する、というのが水野氏の主張です。
そして、とりあえずのゼロ成長社会(買い換えサイクルだけで生産と消費が循環する状態)を実現すること――。
世界でもっとも早くゼロ金利・ゼロ成長・ゼロインフレに突入した日本こそ、その状態を維持できるアドバンテージを有しているにもかかわらず、新自由主義やリフレ論者たちが成長主義にとらわれた政策を続けてしまったため、日本国内もグローバル資本主義の猛威にさらされていると水野氏は指摘しています

ゼロ成長を保っていくためには、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を均衡させる必要があります。財政均衡を実現する上では、増税はやむをません。消費税も最終的には20%近くの税率にせざるをえないでしょう。

「しかし、問題は法人税や金融資産課税を増税して、持てる者により負担をしてもらうべきなのに、逆累進性の強い消費税の増税ばかり議論されているところです。(略)法人税を下げたところでで、利益は資本家が独占してしまい、賃金には反映されないのですから、国家の財政を健全にして、分配の機能を強めていくことのほうが多くの人々に益をもたらすはずです」

「アベノミクスの浮かれ声とは裏腹に、今なお生活保護世帯や低所得者層も増加傾向のままです。二〇一三年の非正規雇用者数は一九〇六万人、二〇一二年の年収二〇〇万円以下の給与所得者数は一〇九〇万人、生活保護受給者数も二〇〇万を超えています。こうした格差拡大の処方箋としては、まず生活保護受給者は働く場所がないわけですから、労働時間の規制を強化して、ワークシェアリングの方向に舵を切らなければなりません(略)私自身は、非正規という雇用形態に否定的です。なぜなら、二一世紀の資本と労働の力関係は圧倒的に前者が優位にあって、こうした状況をそのままにして働く人の多様なニーズに応えるというのは幻想といわざるを得ないからです。結局、労働の規制緩和は資本家の利益のための規制緩和にすぎないのです

以前にご紹介した竹中平蔵氏と、真っ向から対立する意見ですね。。。
水野氏は、かくも中産階級を没落させて民主主義の土壌を腐敗させることにしかならない資本主義は静かに終末期へと入るべきで、我々はまさに「脱成長という成長」を本気で考えなければならない時期をむかえているのだと同書を結んでいます。

まさに、おっしゃるとおり
『資本主義の終焉を歴史の危機』を読んで、是非とも水野氏の講演を聴いてみたいと思うようになりました。

そして、この脱成長という観点は、講師として年間200件以上も講演を行っておられる藻谷浩介氏の「里山資本主義」とも大いに通じるところがあると思います。
次回は、その藻谷氏の著書についてご紹介させていただきますね


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