年間聴講100件超! 講演会マニアが経済の明日を占うブログ

1年間に100件超もの経済に関する講演を聴講している講演会マニアが、見聞きした講師の話を通じて日本経済の展望を語るブログです。

タグ:イギリス

前回の記事でも紹介しましたがイギリス国民投票によるEU離脱の衝撃は大きく、行く先々の経済講演会で、この先の展望について質問が飛んでいました・・・。

そんななか!なんと!離脱派の公約違反が明らかになりました
これまで、離脱をすればイギリスがEUに払っている高額な拠出金(週当たり3億5千ポンド=480億円ほど)が浮くため、財政難にあえぐ国民の保険サービス拡充に出資できると主張していたはずなのですが、実際の拠出金負担がその半分以下で1億数千万ポンドだったことが判明し、独立党のファラージュ党首は「そんなことは言ってない」とシラを切り始めましたΣ( ̄ロ ̄|||)

これから先は大規模な経済混乱が予測されるため、勝利した離脱派もさすがに性急な手続は避けるべきだと慎重な姿勢をのぞかせているのですが、EU側からは「遅滞があれば、不透明感を不必要に長引かせる」と迅速な離脱交渉を促されています。
また、離脱派はEUに留まらなくても各国とFTA(自由貿易協定)を結べばいいと主張してきたのですが、ドイツのメルケル首相は、確かに移民をはじめとするEUの義務は免除されるものの、ヒト・モノ・カネの移動の自由といったこれまでの特権も認めないという厳しい姿勢を見せており、当然ですがイギリスの“いいとこ取り”は断固として許さないと早くも牽制されてしまいました

キャメロン首相が10月までの辞職を表明しているため、保守党内で離脱交渉を行う次のリーダーを選ぶ動きが加速しているのですが、ここにきて離脱派リーダーを務めてきた前ロンドン市長のジョンソン氏がなんと不出馬を宣言。
その動きについて、元外交官・作家の佐藤優氏は「無責任極まりない」としながらも、経済が大混乱することは明らかで、どうせ首相を引き受けてもボロボロになって短期で退陣することになると分かっているため、あえて火中の栗を拾わないようしたのだとラジオで指摘しています。
佐藤優

何でもイギリスでは、アイルランドとの二重国籍の資格を持つ多くの人々が、アイルランドへパスポート申請を行い始めているそうで、それほどまでに庶民の危機感は募っているのだとか。
また、よく報道されているように、EUに留まりたいスコットランドでは独立の動きが再燃しています(そもそも住民投票でイギリス残留が決まった後の下院選挙ですら、すでに独立派が多数を占めています)。
しかし、いくらスコットランドがEUに留まりたいと言ったところで、EU側は独立国家でない以上、加入は認められないという回答しかできません。
それを受けて、スコットランドでは、「独立国家じゃないからEUに加盟できないんだったら、独立国家になっちゃおう(・∀・)」と、戦略的にイギリスからの独立の動きを進めているようです。

富裕層の多いロンドンに対して、貧困層の多いスコットランドでのこうした動きは、ウェールズや北アイルランドの民族意識を強めかねず、さらにはスペイン(バスクやカタロニア)やベルギー(フランドル)といった民族間対立を抱える国家にも飛び火する可能性すら帯びています。
かくして世界の各地では、大民族と小民族との抗争に経済格差が絡み、大きな衝突が生まれようとしているのです。
(ちなみに、日本で同じ構造を持つのは沖縄ですね・・・)

佐藤氏によれば、イギリスは農産物をフランスから、工業製品をドイツから輸入していて、何で儲けているかと言えば“マネー”に他ならないとのこと。
(イギリスのEUへの輸出は20兆円ほど、EUからの輸入は30兆円ほどです)
もし、金融帝国として栄えてきたイギリスがこれまで特権として享受してきたEU内でのヒト・モノ・カネの移動を制限されれば、シティ(ロンドンの金融街)がエジンバラ(スコットランド)に移動することだってありえます。
もしスコットランドが本当に独立してしまえば、イギリスは北海油田を失い、高価なアトランティック・サーモンの収益を失い、グラスゴー近郊にある原子力潜水艦基地も移転しなければならず(引受先もない…)、そうなれば安全保障上の問題すら出てくるそうです。
しかも、現実として安価で危険な労働の多くを担っている移民の流入を止めてしまえば、イギリス製品の競争力はおのずと落ちることになり、ドイツ製品にますます大きく水を分けられてしまいます。

こうして合理的に考えるとEUを離脱していいことは何もないもかかわらず、自分たちの生活がよくならないのはEUのせい(ドイツの一人勝ちにつきあっている)という離脱派の「心情」を止めることができなかったのは、政治の敗北に他なりません。

日本への影響について言えば、佐藤優氏はイギリスのEU離脱を「アベノミクスの終わりの始まり」と形容し、例えばマーケットにおいて離脱派勝利の混乱が早くも収束しつつあると楽観する動きについて、とても危険な兆候だと警鐘を鳴らしています。
佐藤氏によれば、例えば自身が背任の罪でかつて逮捕されたときも、ソ連が崩壊したときも、あるいは一般に会社が倒産するようなときも、人間は危険に直面すると楽観に傾きやすく、根拠のない脆弱な楽観論に依存している状態は極めて危険なのだとか。
9月まで情勢がどうなるか見えないなか、マーケットの不安が高まれば株価は15000円を割り、ドル円も二桁に突入すると分析していました。

奇しくも先の伊勢志摩サミットでは出鱈目な理由を持ち出して「リーマン級」と世界経済の危機をあおり、各国で顰蹙を買ってしまった安部首相ですが、今となっては全く違う理由でリーマン以上の危機に瀕することになりそうですね・・・。
タイムスケジュールとしてイギリスの正式なEU離脱までには手続上2年ほどの時間を要すので、これから急激な変化があるわけではないのですが、投機筋ではポンドが売られ、ユーロが売られ、かといってアメリカもドル高を進めるような動きはなく、余計なことにかかわっていないことで相対的に「安全」とされる円やオーストラリアドル、ニュージーランドドルといった通貨が買われることになるでしょう。

グローバリゼーションの恐ろしいところですが、円安誘導と株高(豊富な年金資金を用いた株価の下支えもありますが…)に支えられえてきたアベノミクスは、外国発の経済危機に飲み込まれようとしています。
自動車をはじめとする日本の輸出関連企業は大きな打撃を被ることが予想され、当然ながらその株価も値を下げていくはずです。多くの企業が想定している為替レートは1ドル=110円ほどなので、90円台に入れば大きな誤算となりますね・・・。
さらに、アメリカでトランプが大統領になってしまえば、日本車には高額な関税が待っています

ちなみに佐藤氏は、そもそも自国の通貨が強くなることを恐れてはいけないのだと言います。
そして、かつての日本では円高になってもそれに打ち勝つだけのイノベーションを生み出すことができていたものの、数学をはじめとした力が弱まり、世界的なイノベーションの流れにもはやついて行けなくなってきていると指摘していました。


何はともあれ、こうした株安の状況は富裕層にとってはチャンスですね。
特に金融資産3億円以上を有するような超富裕層は、投資信託に資金を注ぎ込み、値段の下がった安定株を買うことで、資産を10年で倍にすることも可能とのこと。
というわけで、この先は更なる格差拡大が待っていると佐藤氏は睨んでいます

(ちなみに、佐藤優氏の講演は情報の裏側に迫るスリリングな内容が多く、いつも興味深いです


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6/23 イギリスでEUからの離脱について是非を問う国民投票が行われます。
不安定要素をきらう株式市場では、リスク回避から欧米を始め世界的に株価が下がっており、日経平均も大幅に値を下げています(6/13終値は先週末から400円以上も下がって1万6168円48銭)。
当然ながらユーロ安の展開となり、いつもながら「安全資産」とされる円が買われて円高が加速。2週間前の5/30に1ドル=111円ほどだったのが、6/13には1ドル=105円台後半~106円前半で推移しています。

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自身は残留派でありながら、EU離脱の声の高まりから国民投票に踏み切ったキャメロン首相。

そもそも、イギリスでは何故EUから離脱しようとする動きがあるのでしょう?
そして、仮に離脱してしまったら、世界経済にどのような影響があるのでしょう?
といった根本的な疑問について、イギリスEU離脱論争の理由や背景、目的、メリット・デメリットをまとめて解説したいと思います。


まず、EUにおけるイギリスの立ち位置はもともと微妙なものがあります。
フランスやドイツ、ならびにその他の国家と一定の距離をおきたいイギリスは、かねてよりEUの通貨であるユーロを採用しておらず、従来からのポンドを使用し続けてきました。
(ちなみに、ユーロ使用国家は金融政策の主権を欧州中央銀行(ECB)に譲渡することになり、独自の金融政策を採れません)
また、イギリスは、国境検査なしで欧州各国間の行き来を自由とするシェンゲン協定にも調印していません。
それでも、欧州危機による経済の停滞や、ルーマニアやポーランドといったEU諸国からの移民・難民の増加(イギリスは社会保障が充実しているのです・・・)と治安の悪化は、イギリス国内の反EU感情を高めてきました。

また、記憶に新しいフランスやベルギーでのISによるテロや、ドイツ等で顕在化する移民の問題を間近に見ているイギリス内では、もはやEUの持つ開放性と連帯によるメリットを感じられないという人々が増えているのです。

一方、キャメロン首相は、EUの更なる統合からのイギリスの除外や拒否権、移民優遇規定の一時停止など、EU内での特権的な立場を更に強めたうえでの残留を唱え、EUに残留できれば影響力も高まると国民に訴えかけています。
そして、一定の所得を有し、今の生活で十分安定している富裕層や企業経営層(保守派のエリート層)には残留派が多く見られます。

しかし、特にEU加盟前の時代を知る一定の年代においては、イギリスはEUに加盟しなくてもちゃんとやれるという自負を持ち、国家としての主導権を取り戻そうと意気込む層が存在するとともに、移民に職を奪われかねない(あるいは移民によって給与が低下したり、税負担が増えることを危惧する)比較的所得の低い労働者階級に離脱を支持する割合が増えています。

仮に欧州最大の軍事力を誇るイギリスが離脱してしまえば、経済のみならず安全保障もふくめたEUの連帯に亀裂が生じ、その他の各国でも同様の議論が巻き起こる可能性があります。
それはまさに、実質上ウクライナを併合したロシアの思う壺とも言えるでしょう。

かくして、直近の世論調査では離脱派と残留派が拮抗。
パナマ文書問題や移民制限の公約(10万人以下に押さえる⇒実際はその3倍に・・・)を守れていないキャメロン首相への不満も高まって、このところ離脱派が一気に増えています。
ただし、結局は残留と見る識者が多いようですね。
いくら誇り高きイギリス人とはいえ、立場を決めかねている人々の多くが、最後の最後は経済の悪化~生活の困窮が恐ろしく、現状維持に流れると思われます。
(⇒2016/6/24追記:なんと国民投票で離脱派勝利 直前の世論調査では18-24歳の60%は残留を支持していたのですが、年代が高くなるほど離脱派が増え、65歳以上では60%が離脱を支持していました。)

万一イギリスがEU離脱となれば、ポンドもユーロも通貨価値が下落し、ただでさえ不安定な欧州全体が深刻な不況に陥りかねません。
メリットとして移民を制限できたとしても、今度は対EU各国への輸出に関税の壁が立ちはだかり、EU各国へ自由に展開できないイギリスはマーケットとしての価値を下げ、企業の国外移転や倒産、失業者も増えるというデメリットが考えられます(ECBのドラギ総裁をはじめ、各国首脳も残留するよう訴えかけています)。
尚、日本では株式市場への影響として2千円前後の株安、為替相場への影響として4円前後の更なる円高が見込まれています。イギリスに進出する日産など日系企業の動向も気になりますね。
(円高&ユーロ安の展開は欧州の自動車メーカーに有利なので、競合する日本の自動車メーカーは国際競争力を大きく削がれることになりそうです)

また、現在、シェールガスとの価格競争に陥り、原油価格の低迷が続いている産油国の財政は悪化しており、政府系ファンドによる大量のオイルマネーが市場から一気に引き上げられる動きも見られるなか、果たして世界同時株安の流れに歯止めが掛かるのか?!

6/23イギリスのEU離脱をかけた国民投票の結果から目が離せません!


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