年間聴講100件超! 講演会マニアが経済の明日を占うブログ

1年間に100件超もの経済に関する講演を聴講している講演会マニアが、見聞きした講師の話を通じて日本経済の展望を語るブログです。

タグ:島田晴雄

前々回前回と経済の講演会講師としても活躍されている、
島田晴雄氏の著書『盛衰:日本経済再生の要件』をご紹介いたしました。
震災後の2012年に発表された本書は、
アベノミクスの成長戦略を先取りするような提言に溢れています。

(島田晴雄氏がお話になっている様子はコチラ ↓)


なんか凄い迫力ですが、、、
一方で、その著書での主張に疑問がないわけではありません。
なぜASEANプラス6ではなく、TPPなのかという点には触れられていませんし、成長著しいBRICs諸国との関係性も見えてきません。
過度の自由化と市場原理の導入がさらなる格差拡大を招き、貧困層や社会的弱者の生活を損なうのではないかという懸念は絶えずつきまといます
とりわけ、貧困者が十分な治療を受けられないまま病室を後にせざるをえないようなアメリカ型医療の悪評に触れることなく、自由診療の有益性のみを説く一節には、多くの国民が望む生活の在り方からは乖離した上空飛行の感さえ否めません。

しかし、産業構造を改革して成長を生み出すことの重要性に疑いの余地はなく、そして、現政権の推し進めるリフレ政策の成否も、まさにこの点にかかってくるのではないでしょうか。

成長戦略の先行きが不透明になれば、海外投資家は早々に利益を確定させ、次なる市場を模索し始めることでしょう。株価は急落し、景気が途端に冷え込む一方で円安は続き、輸入に頼る食品や石油・ガソリン・ガスといった資源のコスト増加が実質賃金を低下させ、悪性のインフレに転じかねない危険をはらんでいます。
円の信認を切り崩して行う劇薬としてのインフレである以上、国債の価値が暴落すれば銀行の資産を毀損して金利の引き上げに繋がり、ひいては大企業やメガバンクの経営破綻を含めた深刻な経済危機を招きうるものです

これまでご紹介した藻谷浩介氏や島田晴雄氏が説くように、産業構造の改革と有効な財政出動によってまずは需要を拡大しなければ、供給過剰に基づく構造的なデフレ不況からは脱却できません。
円 安による輸出産業伸張への期待から株価上昇と景気浮揚の雰囲気が短期的に醸成されても、実体経済がともなわければ漠たる期待に支えられたバブルでしかな く、その崩壊時にはデフレよりも深刻なスタグフレーション(不況にもかかわらず物価が上昇する状態)が待ち構えており、予断を許さない状況が続いているようです。

などど、今回は講演会マニアなりに経済の明日を占ってみました

今回も前回に引き続き、小泉政権でブレーンを務めた講師・島田晴雄氏をご紹介します。
島田氏が講演会でもお話になる今後の経済政策について、
その核となる著書『盛衰 日本経済再生の要件』での提言は以下の通りです。
盛衰

(1)持続可能な年金制度の確立:生活の安心の第一は年金である。信頼できる年金制度確立の為、保険料、支給開始年齢の段階的引き上げるとともに、給付削減を明示した上で、成長率・人口高齢化率に応じたマクロ調整を実施するべき。

(2)希望格差の解消
:終身雇用システムへの固着や、派遣労働法の改悪(日雇い派遣の禁止等)、年金支給年齢引き上げに備えた高齢者雇用の義務付けという誤った諸政策が、若年者へ雇用が回らない状況を生み出している。また、最低賃金の引き上げは逆に雇用の縮小を招き、雇用調整給付金の支給は終身雇用と年功序列の就業者を保護するにすぎない。企業に依存しない雇用政策によって同一労働・同一賃金の大原則を実現し、解雇法制の整備やキャリア形成の支援によって若者が安心と希望を持てるような、合理的な雇用制度・慣行・政策への転換を図ることが肝要。

(3)エネルギー戦略:震災を機に縮原発を進めるとともに、これまで他国に後れを取ってきた太陽エネルギーを積極的に利用することで、メガソーラーシステムによる太陽経済都市圏を構築するべきである。また、メディアへ影響力を持つ巨大な電力会社が地域を独占することで高コストが維持されたまま競争が排除されている現状を打破し、分散型電力供給体制を構築しなければならない。

(4)国際立国化:中小企業の競争力をいかしたソリューション提供を軸に、対日投資の促進や、TPPへの早期加入、国際人材の練成によって新時代に適した競争力のある国際立国化を推進すべきである。

(5)戦略農業:日本では様々な権益確保のため食糧自給率は意図的に低く算出されており、政府も票田確保のために小規模零細農家を保護して生産性を上げてこなかった。これから戦略的に農業振興を図るには、減反政策を撤廃し、自由化と農地集約をする(零細兼業農家は賃貸収入へ)ことで、生産性向上と効率の高い農家の成長に繋げる必要がある。また、産業農業とその他の農業を峻別した上で、企業の参入を自由化し、さらにTPP参加によって輸出農業への転換を図ることが出来る。

(6)医療の成長産業化:医療の高度化、高齢化、経済成長の鈍化による税収低下と社会保障費の増加というメガトレンドに対し、政府は規制を強化する愚に出ている。また、現状の診療報酬制度は治療の効果とコストについての評価がなされず、質の劣化を招くとともに、過剰診療の問題も生じている。医療の質の向上と産業としての成長の為に、市場機能と民間保険の活用、医療成果重視への誘導、過度の平等主義を見直して自由診療・混合診療制度を導入すること、医療成果情報の開示とIT情報基盤(電子カルテ)整備による効率化を図ることが求められる。

(7)住宅産業の可能性:高度経済成長時代の「スクラップ・アンド・ビルド」に根ざした耐用年数の短さにより、住宅は個人資産となりえず、買い替えも困難で流通しにくい。また、ゼロ成長と人口減少・高齢化というメガトレンドへの変化に産業として対応できていない。住宅ローン負担の過重リスク(変動金利による債務破綻の恐怖)、営業や販促費といった付帯コストが多大な日本型ハウスメーカーの破綻、ゼネコンの縦割り構造にもとづく市場価格の不透明さといった問題点を解消すべく、コンサストラクションマネジメントを推進して流通を促進させ、家賃の所得控除、生前贈与税の税制控除といった補助政策が重要。さらに高層化、地下の活用、エコ住宅、健康住宅化によるリニューアルで、産業として大いに成長しうる。

(8)観光産業の躍進:観光は経済の約一割もの波及効果を持つ。政府も成長戦略の中で、観光を地域活性化の切り札と位置づけているものの、依然として韓国より外国人旅行者数は少ない。情報が増え、所得が増え、趣味や嗜好が多様化するメガトレンドの変容に対し、高度経済成長時代には有効だった団体旅行の観光産業モデルを脱却できていない。他国に比して観光コンテンツの面白さは欠けるものの、日本は自然、文化、料理、サービス、安全という観光資源が充実している。しかし、大手旅行代理店が航空会社・鉄道会社と連携して大量生産を行う「募集型企画旅行商品」が主で、地域から発想した観光商品が出てこない。旅行者を受け入れる地域が自ら商品を設計し、客の趣味嗜好に合わせて対応する「受注型企画旅行商品」への転換を図る必要がある。また、世界中に拠点を設置して日本を売り込み顧客を集めるインバウンド型営業の展開や、競争を推進力に、泊食分離や交泊分離によって客の自由と選択肢を増やす取り組みも有効である。


人口の減少に伴い内需が下振れする中でも、政策的に国民の安心と希望を確保し、健全な競争の中で、景気を牽引しうる諸産業の戦略的な成長と改革を促すこと――。
そのために、政治経済的なマクロ政策と併せて、潜在的な成長産業の可能性を蝕む利権に切り込む構造改革を推進し、肥大化する社会保障費をも吸収しうる成長戦略をいかに描けるかが重要となるのでしょう。


内閣改造後、ウィメノミクス地方創生など様々な政策を打ち出している安倍政権。
今後の動向について島田晴雄氏の講演会から最新の情報を得ることができるかもしれません

慶応大学名誉教授でエコノミストの島田晴雄氏。
前回の記事で講演会レポートをお伝えした伊藤元重氏とも近しく、
小泉政権のブレーンを務め、竹中平蔵氏の師匠筋にも当たる方です。
島田晴雄

島田氏の講演を聞いていると、その提言通りに安倍政権の政策が進められていくのが分かります。
本日はそのエッセンスがまとめられた著書『盛衰 日本経済再生の要件』をご案内いたします!

震災後の2012年(民主党政権時代)に本書を上梓した島田晴雄氏は、
デフレを「経済衰退の病」と形容した上で、その脱却を図るリフレ論者の見解を紹介しています。
すなわち、デフレを貨幣現象と捉え、実態の経済に比べて貨幣供給が不足しているにもかかわらず、日銀が量的緩和に消極的であったことがデフレの長期化を招いたという主張です。

以前ご紹介した『デフレの正体』の著者・藻谷浩介氏によれば、こうしたリフレ政策は消費を増やすには至らず、デフレ脱却に寄与するものではありません。
これを踏まえて島田氏は、デフレの正体を「人口減」とする藻谷氏の論を批判的に継承しつつ、
韓国・台湾・シンガポールなど、日本より人口減少が激しいにもかかわらず、「人口減少を座視することなく投資と消費の需要を刺激する特別な戦略」を駆使することで、デフレに至っていない国々がある
 と指摘します。

韓国はアジア通貨危機に伴うウォン安を機に輸出拡大を成功させ、
台湾は大胆な構造改革によって個人消費や民間投資促進策を採るとともに、中国との連携を強化して輸出と内需を拡大し、
シンガポールは外国人労働力を活用し、積極的に海外からの投資を導入して成長を続けています。

これに対しバブル崩壊後の日本では、「投資需要、消費需要を刺激する戦略、政策が不在」でした。
人口減少にともなう市場縮小の展望の中で国内外からの投資が停滞し、「長期的かつ構造的悲観展望を積極的な展望に変える戦略が不在であったことがデフレを助長した」と島田晴雄氏は結論付けています。

また、その上で島田氏は、日本経済の凋落とデフレ長期化の原因を以下の3点にまとめています。

①供給過多の産業構造が高度経済成長時代から進化しておらず、多くの企業が競合の中で弱体化を余儀なくされ、グローバル化も活用し得えず、デフレを助長している。
②高齢化社会の需要を支える医療、健康、住宅、観光において旧態依然としたサービスの提供が行われており、需要喚起に失敗している。
③医療、農業、教育、政治、行政などのシステムが時代の変化に大きく遅れていることが、日本の衰退傾向を助長した。


主要産業におけるワールド・クラス・カンパニーの乱立に見られるような過大な供給構造は、古いビジネスモデルでの価格競争を招き、デフレを誘発します。
加えて、高度経済成長を支えた日本型のビジネスシステム(垂直統合、自前主義、間接金融に依存した低い自己資本利益率、等)から脱却し得ない多くの企業が、資本調達力で外国企業の後塵を拝し、グローバル化、情報化の進む世界市場で低迷を続け、世界調達、世界ネットワークの面でも後れを取っている点が問題とされています。

さらに、農業では、生産性よりも政治と農協に有利な小規模構造が維持され、「開放経済の最大の障壁」となっています。
医療では、高齢化と財政困難により質とアクセスが劣化しています。
教育では、高度経済成長時代に機能した暗記型規格生産方式の弊害と、学部自治を盾に経営の理論と反して教職員の雇用を維持する教授会の体質、それらが少子化とあいまって質が低下しており、問題発見と解決能力や国際志向が養われない状況です。
政治・行政においても、高度経済成長を支えた官僚システムが、自民党の長期政権下における政官民の利権癒着構造のもとで肥大化・強大化し、やがて閣議の形骸化を招き、大きな政策決定がほとんど行われないほどシステムが劣化しています。

こうした島田氏の論点の根底にあるのは、政治・経済・文化・社会を巡る様々なメガトレンドが変容しているにもかかわらず、行政や企業がそれに適応できず、高度経済成長を支えた旧来型のシステムを維持したまま機能不全に陥っている現状への危機感に他なりません。

そこに新自由主義的な市場原理と競争を導入し、産業の振興と、実情に応じて社会を構成する諸システムの健全化を図るという考えが、その基本姿勢となっているようです。

そこで、日本の再生の為に、島田晴雄氏が渾身の著書『盛衰』に記した改善策とは?
改めて読み返すとアベノミクスの教科書とも言いうる内容だけに、また次回、改めてじっくりとご紹介させていただきます ( *`ω´)b

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